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特集

自転車なら逃げきれる?サイクリストがクマに出会ってしまったら…対策を伝授!

ヒルクライムやグラベルライド、MTBでのオフロードライドなど、山に入る機会も多いサイクリスト。頂上からの絶景や林道を駆け抜ける非日常感はたまりませんが、近年その楽しみの裏側に大きなリスクが潜んでいます。そう、クマです!

全国で増えているクマの目撃・被害は、もはやサイクリストにとっても他人事ではありません。もし走行中に遭遇してしまったらどうする? ロードバイクのスピードなら逃げ切れる? 遭わないためにはどうすべき?

というわけで、クマの専門家に「サイクリストのクマ対策」を伝授してもらいました。

クマってどんな動物?

本州と四国に生息するツキノワグマ。サイクリング中にバッタリ出会ってしまったら……?

サイクリストはクマとどう向き合うべきか。何を知っておき、どう行動すべきなのか。実践的なスキルを、その道のプロに教えてもらいましょう。

今回お話を伺ったのは、日本クマネットワーク東北地区代表委員の大西尚樹さん(森林総合研究所)。野生動物の生態を研究し長年クマに携わってきた専門家であり、ロードバイクやMTBに乗るサイクリストでもあります。

自転車乗り向けの取材ということでサイクルジャージ着用で臨んでくれた大西さん

── 大西さん、さっそくですが、日本のどの地域でもクマに出会う可能性ってあるんですか?

日本で出会うクマは2種類いて、北海道にだけ生息しているヒグマと、本州と四国に生息するツキノワグマです。日本全国ということではなくて、九州ではもう絶滅していますし、四国には30頭程度しかいません。ただ本州の中でクマがいないとされているのは千葉県だけ。東京にはいますよ。

── クマがいない地域もあるんですね。そして大都会、東京には生息していると……! 街中でもクマに出会う可能性ってあるんですか?

さすがにまだ都心では考えにくいですが、東京も都心から離れると自然豊かなところが多いですからね。奥多摩の山や林道はクマの生息域ですし、最近では青梅あたりでもクマの出没を耳にするようになりましたね。

── ツキノワグマってヒグマに比べて小さいイメージなんですけど、やっぱり危険なんですか?

そりゃあそうです。ツキノワグマだから安全、なんてことは決してないです。ただ、こういう話題ではとかく「クマは凶暴だ」「クマは怖い」になりがちなんですが、クマも人間には出会いたくないんです。クマからしても、人間は大型動物ですからね。基本的には、クマのほうで人間を察知したら離れるか隠れるかしてくれてるんです。

── そうか、私たちが気づいていないだけで、クマがひっそりと離れていくケースもあるんですね。

実際多いんですよ。私もフィールド調査のときに、すごくクマの臭いがする地点があったりして「あ、このあたりでクマが隠れてくれてるな」なんてことは何回も経験しています。クマってあれだけ巨体なのに、気配を消すのがとても上手いんです。

だからクマが理由なくこちらに向かってくることって基本的にはないんです。ただ、ひとつだけ例外があって。

── 例外?

子連れの母グマです。子グマが一緒にいる場合は子どもを守ることが最優先になりますから、たとえ人間が子グマに気づいていないとしても、いきなり襲ってくることも考えられます。

── 「子グマ可愛い〜」とか言ってる場合じゃないですね……!

そう。子グマを見つけたら絶対にすぐにその場を去ることです。子グマは危険のサインです。

【対策①】まずは出会わないことが大事!

── ここまでお話を聞いて、すでに「遭遇しない」ことが一番だなと感じます。「クマと出会いやすい時間帯」などはあるのでしょうか。

クマの行動時間帯として、日の出や日没がもっとも活発だといわれています。つまり早朝と夕方がいちばん行動的になるわけですが、日中や夜中は休んでるかというとそうではない。夜中も日中も動いてますし、夜中と日中でどっちがよく動いているかというと、日中のほうが動いている、というイメージですね。

── あれ、クマってずっと起きてる…? 寝ないんですか?

ずっと起きてるというより、寝たり起きたりを繰り返していますね。

── なるほど。どの時間帯でも遭遇するリスクはあるんですね。じゃあ季節はどうですか? 活発になる季節がある?

季節はもう「冬以外ぜんぶ」です。春は冬眠明けでエサを探して動きまわるし、夏は一番エサが少なくなる季節なのでクマも頑張って探し回る。秋は冬眠前にしっかり食べておかないといけないので、やっぱり動き回っていて、結局、春から秋までずっと活動してますね。

── 春も夏も秋も。たしかに「冬以外ぜんぶ」ですね。

ちなみに夏にかろうじて探し出すエサは、野イチゴとか山ブドウとか、石をひっくり返して食べるアリとかになるんですけど、そういうものって明るい森に多いので、じつは夏は道路ぎわまで降りてきやすい時期ではありますね。

── となると、クマの心配をしないでいいのは冬だけってことですね。

そうですね。とはいえ、冬だけ走るわけにもいかないですよね。サイクリングのオンシーズンは春や秋ですし、夏こそ涼を求めて峠を走ることもあるだろうし。時間帯にしたって、サイクリストの朝は早い。真夏に早朝を避けてわざわざ暑い時間帯に走るのも厳しいでしょう。クマと出会わないためにクマの生態を知っておくのは大事なことですが、もっと具体的な「サイクリストが取るべき行動」というものがあります。

【対策②】ソロライドと過疎ルートはNG

── 「サイクリストが取るべき行動」、ぜひ教えてください!

2つ挙げられるんですが、まず1つ目は「単独行動を避ける」こと。クマが出没するような山道を走るなら、ソロライドは避けて複数人でライドに出かけてください。

── グループライド推奨ということですね。

はい。人数が多いほど話し声や動作音も大きくなるので、存在感が増すのは間違いない。そうすればクマも気づきやすくなります。そういった理由から存在を知らせるメリットもあるんですが、どちらかというと「何かあったとき」を考えて複数人でいるべき、という意味が大きいですね。

山はみんなで

これはクマの被害に限ったことじゃないですが、山の中だと不測の事態に対してとれる行動がかなり限られます。そのときに一人なのか、何人か仲間がいるかで選択肢が変わってくるのは明白ですよね。クマに出会って事故が起きてしまったときに、一人だとどうしようもないけど、何人かいれば「できること」は広がります。

── ひとりだとパニックになってしまうところが、複数人ならいくらか冷静な判断もできそうですよね。逃げ道の確認や応急処置、救助を呼ぶ、いろいろありますね。

いざというとき助け合えるのは精神的にもかなり大きいですね。というわけで、1つ目が「ソロライドは避ける」。そして2つ目は「過疎ルートを避ける」です。

「過疎ルート」、つまりサイクリストの間でもほとんど知られていないような秘境だと、ただでさえ人通りが少ない山道で誰にも出会うことがなくなりますよね。人の気配が薄いぶん、クマにとっても活動しやすい環境であるともいえます。こうした道では遭遇しても助けを呼びにくく、逃げ道も限られてしまうため、リスクが高まります。

── 山の中を走るヒルクライムやグラベルルートでも、意外とサイクリストとすれ違いますもんね。あえてリスクを高めるようなルートを選ぶ必要はない、ということですね。

クマ対策を考えるなら、山道とはいえ人気(ひとけ)があるルートを選ぶのが安心です。

あとは走るエリアの「クマ出現情報」をライド前にチェックしておくことも有効です。直近の目撃情報があるエリアを避けたり、自治体や警察が発信する注意喚起を頭に入れておくことができますからね。

熊の目撃や出没履歴は、自治体ごとに公開先が異なります。例えば東京都の場合は、東京都環境局が展開する「TOKYOくまっぷ」で目撃地点を地図で確認することができます。
ほかのエリアでも、都道府県や市町村の環境局・警察署のサイトなどで「クマ出没マップ」「注意喚起ページ」が用意されていますので確認しておきましょう。

【対策③】クマと遭遇してしまったら…自転車なら逃げ切れる!?

── できる限りの対策をしていても、運悪くクマと遭遇してしまったら……単刀直入に、どうしたらいいですか!?

「まっさきに取るべき行動はコレ!」といいたいところなんですが、まずは落ち着くことです。難しいとは思いますが、パニックにならないように。

そして、クマと対峙したときのイメージは「私もあなたも怖いよね、ゆっくりちょっとずつ離れていきましょうね」という感じ。

── よく「背を向けて一目散に走り抜けるのはNG」っていわれますよね。これ、自転車だったら一気に逃げるってのもアリな気がするんですが……(というか、そうしちゃいそう)

そうなんですよね、ここが自転車の難しいところです。徒歩なら絶対に「走って逃げる」はNGです。クマって時速50kmで走りますからね。自転車だって逃げ切れる保証はないんですが、クマとの距離がある程度離れているならすぐさま走り去るのがベストというケースもあるでしょう。

── たとえば25mぐらい離れている場合ならどうでしょうか?

いわゆる学校の屋外プールが25mの距離。この先にクマがいる場合ならどうだろう

具体的な事例があったわけではないので、ここからはあくまで仮定の話として聞いてほしいんですが、50m先でクマと出くわした場合、こちらがロードバイクなら、即座に逃げて大丈夫だと思います。とくにロードバイクでスピードに乗っている状況で、逃げる先が下り坂ならなおさら、走って逃げ去るのがいいでしょうね。

じゃあ25m。25mになると結構近いのでちょっと判断が難しい。まずは「止まって様子を見る」ことですね。

25m先にクマがいるイメージ

25m先にいて、クマのほうからいきなりこちら目がけて襲ってくるっていうのはちょっと考えづらい。クマもまだ、ぎりぎり恐怖心を抱かないぐらいの距離なんじゃないかな。なのでいったん状況を確認して、気持ちを落ち着けてから、Uターンして逃げ切る。僕でも自転車に乗っていたらそっちの可能性にかけたくなりますね。

── じゃあもっと近い場合。10mならどうでしょう?

およそ10m先にクマがいるイメージ図

10mまで近づいてしまっていたら、もう徒歩の場合と同じと考えたほうがいいですね。一度止まって「クマの目を見ながらじりじりと後ずさり」です。距離を十分とって、それこそ25mぐらい離れられたなら自転車に乗って一気に逃げる、が最適解になるでしょうね。

── あとはエンカウントしちゃうパターン。「カーブを曲がったらいきなり視界にクマが現れた」そんなシーンならどうでしょうか。

ケースバイケースなので状況判断にはなるのですが、出会い頭でいきなり遭遇した場合、とくにこちらがトップスピードに乗っていて、急ブレーキして落車するようなシーンだったら、そのまま走り抜けるほうがいいかもしれない。でも逆に上りでゆっくり走っているときなら、やっぱり「止まって後ずさり」になるでしょうね。

【対策④】最悪、クマが襲ってきたら…

── 最悪のケースとして、クマが襲ってきたときのことも教えていただきたいです。

クマと対峙してしまったときに、もっとも有効な手段となるのは「クマよけスプレー」です。米国環境保護庁(EPA)の認証を取得しているものを推奨しています。アメリカ製の『カウンターアソールト』が有名で、強力な唐辛子エキスの刺激でクマを撃退できます。これが効かない哺乳類はいません。私もフィールド調査のときは、ストロングタイプを2本持ちしています。

熊よけスプレーCA230 カウンターアソールト

── クマよけスプレーが命を守るアイテムだと理解はしつつ、サイクルジャージで走るサイクリストにとって携行のハードルが高いのもまた事実です。スプレーを持っていない状態でクマと対峙したときやるべき行動は?

クマは顔や頭を狙って攻撃してきます。なので私は登山者や山菜採りなどで山に入るような場合にもヘルメットの着用を強く奨めているんですが、サイクリストの場合はヘルメットは基本かぶっていますよね。これはじつはとてもいい。軽量性を重視しているので攻撃に対しては心もとないとはいえ、かぶっていないよりはるかにいいでしょうからね。

登山用ヘルメットと自転車用ヘルメット

あとは、サイクリストが今まさに乗っている自転車。命がけの場面だから、使えるものはすべて使うと考えると、自転車はある程度有用かもしれないですね。

── 自転車を使うんですか? クマに投げつける、とか?

投げつけても前足で跳ねのけられて終わりでしょうね。攻撃じゃなくディフェンスです。盾として使う。クマは頭を狙ってくるので、フレームを前に高く持ち上げてガードするのがいいでしょうね。

自分を大きく見せるという点でも、間違ってはいないとは思います。これでクマが逃げるわけではないし、助かる保証はないのですが、何もしないよりはマシでしょう。

あとはクマに対する防御姿勢というものがあって、うつぶせになって両腕と手で頭部と首筋を守るんです。致命的なダメージを防ぐための姿勢ですが、リュックの要領で自転車を背中の上に重ねてガードする方法も考えられますね。

とくにツキノワグマに関しては、相手に一発くらわせたら離れていくケースも多いんです。その一発を致命傷にしないことが運命の分かれ道になるともいえますね。

【装備】リスクを最大限に減らすために

── クマよけスプレーが一番効果的という話がありましたが、サイクリストが今すぐできるクマ対策装備はありますか?

やはり熊鈴でしょうね。音で存在を知らせて、クマとの接触を避けるために、熊鈴やラジオは昔から用いられている定番アイテムです。

── 自転車用の熊鈴もありますからね。普段は消音できて、山道に入ったら鳴らせるタイプならいつでもつけておくことができますね。

あとはクマ対策に限らずですが、山奥を走るならホイッスルや応急処置キットを持っておくと万が一のときに安心です。落車時のケガにも使えますしね。いざというときの装備は、どう使うかを具体的にイメージしておくことも大切です。クマよけスプレーなんて、普段使うことはないですから、極度の緊張状態でとっさに操作するのは難しいんですよ。

登山やキャンプではおなじみのファーストエイドキット。同じく野外活動の自転車でも携帯しておいて損はない

消火器と一緒で、大事な場面でしっかり使えるように準備しておきたいですね。

クマを知り、最大限の備えで山奥サイクリングへ!

クマに出会うリスクは、山を走るサイクリストにとって決して他人事ではありません。ポイントは「遭わないようにすること」と「遭ってしまったときの行動」です。

自然の中でのライドは楽しいですが、その自然の一部なのがクマ。クマとの遭遇リスクをきちんと頭に入れて、行動と装備を整えて走ることが、サイクリストにできる最大限の対策といえるでしょう。


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