サイクリング中、走行中のクルマのドアミラーが腕にぶつかり、転倒。相手のクルマは、そのまま走り去ってしまった!?
「逃げられちゃったし、まあいいか……」
いや、いいわけない!
自転車事故は、直後の対応で未来が大きく変わることも。実際に轢き逃げに遭ったサイクリストの体験とともに、事故後の「やるべきこと」を弁護士に聞いてきました!
恐怖!ドアミラーに腕をもっていかれて転倒…。 自転車事故のリアル

事故対策は、知識として理解するだけでは足りません。実際の非常事態で機能するかは、イメージとして身体に落ちているかどうかにかかっています。
その場の混乱や恐怖を想像しながら、対処の流れを追体験しておく。それが本当の備えになります。
今回話を聞いたのは、実際に轢き逃げ事故に遭ったbuychari JOURNAL編集部のおかだくん。あの日、何が起き、直後にどんな判断をしたのか。その経緯から振り返っていきましょう。
━━ 事故当時の状況を教えてください。

「とある秋の日曜日、午前10時ごろ、広島県福山市の沿岸部をロードバイクで走っていたときのことでした。2人でライドしていて、僕が3mぐらい後ろにつく形で走っていました」

「現場は5%程度の上り坂だったので、スピードは時速10km程度しか出ていなかったと思います。
車道の左側を走行中、後ろから軽自動車が時速60kmぐらいの速度でやってきて、追い抜きをかけてきました。
その際、クルマの左ドアミラーが僕の右腕(上腕部)にぶつかり、その弾みで車道側に転倒してしまいました」

「日中でしたが、テールライトは点滅させていました。荷物も背中のバックパックだけ。視認性が悪かったとか、パニアバッグのような重いバッグを自転車につけて走行の挙動が不安定になるということもありませんでした」
━━ 事故の瞬間はどう感じましたか? 何が起きたかわからない、いわゆるパニック状態になってしまうのでしょうか?

「右腕にぶつかった瞬間、『あ、これはクルマに逃げられたらヤバい! 事故が起きたことをドライバーに知覚させなければ』と思い、めちゃくちゃベタに『うわー!!』って叫んだ記憶があります。まぁ結局逃げられちゃったんですけどね……
何が起こったかわからなかった、というより、不測の事態に脳みそがオートでフル回転した感覚がありました」
━━ けがや被害の状況は?

「自分のけがは上腕の打撲と腰・首のむち打ちです。自転車は各部に傷がついてしまい、カーボンフォークは全損扱いになりましたね」
━━ 加害者はその場にとどまったのですか?
「いえ、走り去っていきました。いわゆる轢き逃げの形ですね。加害者は後に見つかったのですが、警察の事情聴取によると “当日朝まで遊んでおり、居眠り運転だった” とのことでした」

━━ 現場の道路の状況をもう少し詳しく教えてください。道幅とか、交通量とか。
「現場は見通しがよい直線道路で、先ほど言ったとおり、上り坂です。クルマの制限速度は50kmでしたが、交通量はそれほど多くないため、普段からスピードを出すクルマが多い印象ですね」

「道幅はクルマが対向できる広さはありました。道路の中央には黄色の実線のセンターラインがあります。
追い越しの観点からすると、自転車から十分な距離をとって走行できるとはいえないですね。中央線をまたがない限り、クルマから自転車までの側方間隔は1m未満しかとれなかったと思います」
━━ 事故後はどうされたんですか?
「事故直後は骨折など大きなケガもなさそうで、正直なところ僕自身は「逃げられちゃったしまぁいいか」なんて安直に考えてしまっていました。実際、その日は自走して帰宅しちゃってますしね。
そもそも事故直後にクルマがそのまま走り去ってしまった状況で、どうしようもないかな、と思ってしまって」

「でも一緒にいた人が『通報するべき!』と強く言ってくれて、そこでハッとしました。
すぐに警察に連絡し、結果的にはそれが正解だったと思っています。
もしあのまま通報せずに帰っていたら、あとからかなり困っていたと思います。事実、ケガの治療で半年ほど通院することになりましたしね。
いま振り返ると、保険や再発防止の観点からも、“事故が起きたら即通報” は本当に大事だったなと実感しています」
こうしてみると、おかだくんは交通ルールを守って安全に走っていますし、テールライトも点滅させて後続のドライバーへ自身の存在をアピールするなど、予防安全対策も徹底していたことがわかります。
現場は見通しがよい直線道路で、スピードを出すクルマは多いものの交通量はそれほど多くないとのことで、事故が多発する場所という印象もありません。
それでも事故は起こるときには起こってしまうのですね。
弁護士が教える「自転車事故でやるべき7つのこと」
事故に遭うと気が動転してなかなか冷静には動けないもの。
弁護士法人プロテクトスタンスの大橋 史典(おおはし ふみのり)弁護士に、事故直後、事故後の具体的な動き方のほか、望ましい安全対策、事故への備えについても教えていただきます。

大橋 史典(おおはし ふみのり)
弁護士/弁護士法人プロテクトスタンス
弁護士として約10年のキャリアがあり、特に交通事故や刑事事件に関する知識と経験が豊富。税理士や社会保険労務士の資格も有しているほか、テレビの報道番組や情報番組、新聞社、Webメディアから依頼を受けて話題のニュースを解説するなど、メディアへの出演実績も多数(第一東京弁護士会所属)。
①事故直後にすべきこと5つ
- 安全を確保!
- 110番へ通報!
- 相手の情報を確認!
- 保険会社へ連絡!
- 写真に残す!
【1. 安全を確保!】
まずは被害の拡大を防ぐため、路肩など安全な場所へ移動しましょう。強い痛みや骨折の疑いがある場合は無理に動かず、救急要請を優先してください。
【2. 110番へ通報!】
次に、無傷や軽傷に思えても必ず110番通報すること。事故を警察に報告することは法律上の義務です(道路交通法第72条1項)。相手から「示談するから警察は呼ばないで」と言われても応じる必要はありません。相手が通報しない場合は自ら通報するか、周囲に依頼しましょう。相手が走り去ったような状況でも、迅速に通報することで犯人の特定につながる可能性が高まります。
【3. 相手の情報を確認!】
相手の氏名や連絡先、車両ナンバーをしっかり確認し、その場でメモを残しておきます。相手の保険会社を確認しておくことも重要です。
【4. 保険会社へ連絡!】
自身で自転車保険や自動車保険に加入している場合は、なるべく早めに保険会社に連絡を入れましょう。
【5. 写真に残す!】
現場の状況に加え、自転車の損傷なども写真に撮って残しておきましょう。
事故後でもなんとか走れそう。自走で帰っても大丈夫?
事故後の自走は原則として控えるべきです。後から症状が悪化しても、「走れた=軽傷」と評価され、適切な賠償を受けられないリスクがあります。自己判断せず、救急隊員や警察の指示に従いましょう。
②事故後にすべきこと3つ
- 医療機関を受診
- 保険会社を通じてやり取り(示談には応じない)
- (必要に応じて)弁護士に相談
【1. 医療機関を受診】
事故当日は症状が軽くても、できるだけ早く医療機関を受診することが重要です。時間が空くと「その症状は本当に事故が原因なのか」という因果関係が争われやすくなります。受診後は自己判断で通院をやめず、医師の指示に従って治療を継続しましょう。通院が途切れたり不規則になったりすると、治療の必要性を疑われることがあります。
【2. 保険会社を通じてやり取り(示談には応じない)】
相手から直接示談を持ちかけられても、その場で応じず、原則として保険会社を通じてやり取りしましょう。安易な提案に応じてしまうと、治療が長引いたり後遺症が残ったりしても、十分な請求ができなくなるリスクがあります。
【3.(必要に応じて)弁護士に相談】
保険会社とのやり取りにも注意が必要です。事故の責任(過失割合)について、実際より自分の過失が大きいように説明されたり、治療中にもかかわらず治療費の支払い終了を打診されたりすることがあります。説明に疑問があれば、弁護士などの専門家に相談することを検討しましょう。
そもそも事故にあわないために必要なこと

事故直後の対応はもちろん重要ですが、本来いちばん大切なのは「事故に遭わないこと」です。サイクリストは日ごろ、どんな備えをしておくべきなのか。引き続き大橋弁護士に伺います。
クルマとの事故を防ぐために、まずライトや反射材などで視認性を高めましょう。ドライバーへの積極的な意思表示も効果的です。アイコンタクトや手信号でこちらの意図を伝えれば、ドライバーの不安が解消され、無理な追い抜きなどを抑止する心理的なブレーキになります。
こうした対策は、万が一事故が起きた際、自分に落ち度がなかったことを示す「法的な備え」にもなります。ライトの使用や合図は、ドライバー側に「自転車の存在や動きを予見できたはずだ」と主張する強力な根拠になり、不当な過失を押し付けられるリスクを減らしてくれます。
ただし、ルールを守っていても、居眠り運転など「防ぎようのない事故」に巻き込まれるリスクはゼロではありません。さらなる自衛策として、ドライブレコーダー(サイクルレコーダー)の装着を検討してみてください。目撃者がいない事故では、相手から事実と異なる主張をされるケースも少なくありません。映像という客観的な証拠を持っておくことは、不要なトラブルから自分を守る強力な盾となるでしょう。
自分の保険に弁護士特約がついているか確認してみよう
自転車で走行中、クルマにぶつけられたという事故被害に関するご相談は非常に多く、おかださんのようなケースは決して他人事ではありません。もし事故に遭ってしまったら、一人で抱え込まずに弁護士へ相談することも検討してみてください。
事故後はケガの痛みだけでなく、相手方や保険会社との慣れないやり取りが大きな精神的負担になりがちです。弁護士に窓口を任せることで、そうしたストレスから解放され、治療に専念できる環境が整います。また、専門的な視点から交渉を行うことで、適切な賠償額の受け取りにもつながります。
弁護士費用に不安がある方は、まずご自身やご家族の保険に「弁護士費用特約」が付いていないか確認してみましょう。自動車保険以外にも、自転車保険や火災保険、クレジットカードの付帯保険に含まれていることがあり、これを使えば自己負担を抑えて依頼できるケースがほとんどです。万が一の備えとして、一度、契約内容をチェックしておくと安心です。
最悪パターンを避けるために。自転車事故の行動チェックリスト
最後に、自転車事故に遭ったときにやるべきことを順番にまとめます。
●事故直後
- 安全を確保! けがの程度が大きい場合は救急を要請!
- 110番へ通報!
- 相手の情報を確認!(連絡先、クルマのナンバー、保険会社)
- 保険会社へ連絡
- 写真に撮る(現場の状況、自転車の状態)
●事故後
- 医療機関を受診
- 医師の診断で通院を続ける
- 示談には応じず、保険会社にやり取りを任せる
- 保険会社と密に連絡を取る
- 保険会社の説明に疑問がある場合は、弁護士に相談する
どんなに気をつけていても、事故に遭ってしまう可能性はゼロにはできません。皆さんも今回の記事の内容を頭に入れ、いざというときに冷静に対処できるように備えましょう!